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カテゴリ:〇原発事故と環境リスク( 5 )

 

原発事故から環境リスクを考えるⅤ(アスベスト問題、地球温暖化問題、自然エネルギー)

1995年の阪神大震災で建物解体作業に携わった労働者が、石綿(アスベスト)を吸って中皮腫を発症したとして労災認定を受けており、東日本大震災では、環境省が被災地のアスベスト飛散状況を調査し、通常の大気環境とほぼ同じ数値で、「健康影響はない。」としているが、がれきの解体時などには防塵マスクの着用を呼びかけている。

2005年に、石綿を使用して水道管を製造していた尼崎市にあるクボタの工場の従業員ばかりでなく、周辺住民にも健康障害被害が及んだことが報道されてから、このアスベスト問題が社会的な環境問題として顕在化した。
欧米よりアスベスト使用禁止の規制が遅かったとの政府を非難する報道がなされたこともあり、2006年早々に「石綿被害救済法」など関連法が成立した。

食品製造関係では、この問題はないのではと思う人が多いだろうが、2004年にパン職人が中皮腫で68歳で死亡した。アスベストを断熱材として使用したオーブンで、パンを50年間焼き続けていたということで、2006年に労災認定を受けてたのである。
また、1960年代に建設された食品製造工場では、ボイラー、冷凍機などの付帯設備の建屋の天井、壁にアスベストを吹付けているところもあり、飛散防止剤を吹付ける改修をおこなったと聞いている。

このように、自然界に存在する有用資源であったアスベストは、健康障害を直接引き起こす環境リスクと判明し、2030年をピークに抑制されると言われているが、最大の環境リスクである地球温暖化問題は解決の目途が立っていない。
福島原発事故の電力供給不足を契機に、節電の努力を継続し、また自然エネルギー(クリーンエネルギー、グリーンエネルギー)の活用を進め、『地球温暖化問題の先進国』として世界に認められれば、世界の潮流を変えることが出来る可能性もあるかも知れない。
限界は承知のことであるが、期待したい。

by ecospec33 | 2011-06-10 20:10 | 〇原発事故と環境リスク  

原発事故から環境リスクを考えるⅣ(下水汚泥の放射能、放射性セシウム)

ある工場で排水処理施設を増強したいという提案があり、工場担当者と打ち合わせた。
その工場は、ボイラー、冷凍機、排水処理などの面倒をみる工務系と呼ばれる従業員が充実していたが、その面影もないほど少人数になり、個々人の実力が衰えているように思えた。
というのも、排水処理施設を増強したいというにも関わらず、工場の生産量は減少を続けており、排水の汚濁負荷量も排水量も増加しているという事実がなかったからである。
打ち合わせを続けていくにつれ、問題点が浮かび上がってきた。それは、集中豪雨などの降雨時に排水の水量が急激に増加することであった。

排水処理能力は、処理可能な「最大汚濁負荷量」と処理可能な「最大排水量」によって決定されるのである。
山の直下に立地する工場なので雨が集まり易く、降雨時に最大排水量を超過することもあり得るだろうが、何か疑問を感じないだろうか。
排水処理の配管系統、これを「排水系」と呼ぶが、これに雨水が混入するということである。
雨水は「雨水系」と呼ばれる専用の配管系統に集まり、処理しないで河川などに流出させるのが基本なのだが、この工場は排水系と雨水系の分離が完全でなかったのである。
当然のように、その打ち合わせの結果は、排水と雨水の「系統分離」を優先的に進めることになり、排水処理は老朽化の改修のみとなった。
東京都の「下水道の仕組み」
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下水処理場(水再生センター)の脱水汚泥、焼却汚泥、溶融スラグから高濃度の放射性物質が検出され、その最終処理に支障をきたしているという。
福島原発事故により大気中に拡散した放射性物質は自然落下し、または降雨とともに落下し、大地を汚染した。降雨によって放射性物質は大地から流出し、その多くは河川に流れ込み、すでに海にたどり着いているはずだ。
放射性物資の汚染は、大気から大地へ、大地から川へ、川から海へと広がっている。
人間社会が生み出した福島原発の事故により、放射性物質という「環境リスク」が大気圏、水圏、陸圏のすべてを襲い、人間社会に悪影響を及ぼしているのである。

その一部の放射性物質が、本来混入しないであろう下水処理場の脱水汚泥に濃縮されていたのである。工場に「排水系」と「雨水系」があるように、市町村の排水管には「汚水系」と「雨水系」の2系統があるが、完全には分離できていないために、放射性物質が含まれていないはずの「汚水系」に、放射性物質を含んだ「雨水系」が混入したと考えてよいだろう。
新聞発表されている下水処理場の脱水汚泥などの放射性セシウムのデータを調べた。
福島原発との距離に相関はあることは明らかで、また3月23日に金町浄水場の上水から乳児の飲用基準値の2倍を超える放射性ヨウ素が検出された時期に比べ、現在は2桁数値が低下しており、時間経過との相関も明らかであり、また降雨との相関も大きいと思われたが、明確に出来なかった。
ただし、5月30日に発表した八王子市は、『北野処理場が家庭の汚水と雨水などが流れ込む「合流式」なのに対し、八王子水再生センターは汚水のみの「分流式」なので、放射性セシウムの数値が前者:7,910、後者:2,870ベクレル/kgと大きく違う。』と、雨水混入の差異を指摘していた。

by ecospec33 | 2011-06-09 20:04 | 〇原発事故と環境リスク  

原発事故から環境リスクを考えるⅢ(水圏の環境リスク、工業用水、カシンベック病)

工業用水道事業は、工業の健全な発達と地盤沈下を防止することを目的に、自治体が主体になって、製造業用の水(工業用水)を供給する事業である。
東京都、茨城県、愛知県、阪神地区の自治体、仙台市、横浜市などが、この事業をおこなっている。
この工業用水道と上水道(市水、水道)の配管を取り違え、何年も気づかなかったという話題が新聞など報道されることがある。
その時は必ず、市民が「工業用水の方がうまかった。」というような記事になる。それは何故か?工業用水は上水より、殺菌用の塩素剤の投入が少ないためである。

食品製造企業は、他の事業に比べて用水の確保が重要である。
ビール、飲料会社では、工業用水道を多用するキリン、アサヒに比べて、サントリーは工業用水を極力使用しないよう、工場立地に努力しているように見受けられる。
井戸水、伏流水、河川水など自然から得られる用水は安価であるが、容易に得られる工場立地は少ないので、それに代わる工業用水は上水に比べて安価であることから、これを確保することが、企業にとって有利となる。
上水(水道)は、「水道法」で『国及び地方公共団体は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、かつ、水が貴重な資源であることにかんがみ、水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならない。』と規定されているが、「工業用水法」には、このような「健康」規定はない。
このため、食品製造企業が工業用水を使用する際のリスクは、健康被害を生じる可能性があることである。
そのリスクを企業は認識しておくことが重要であり、このリスクを回避させるため、用水処理施設とその維持管理が必要となる。
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東京都の工業用水は葛飾区、江戸川区など東の区部に配水されているが、企業の撤退により、その使用が減少しており、また地下水の揚水規制によって地盤沈下が抑えられていることから、その事業の廃止などを含めた抜本的な改革を検討しているという。

この工業用水の原水は、その多くは利根川の表流水であるが、多摩川の表流水もある。
多摩川の原水は骨・関節の変形などの「カシンベック病」を発症させるのではないかという疑いがあり、1970年に都の調査委員会が結成された。委員会が重大なリスクありとの少数意見を受け入れなかったので、委員が辞任する騒ぎとなったという。
当時の美濃部都知事にその委員が直訴して、多摩川を水源とする玉川浄水場の上水は閉鎖されることになったという。
結果は異なるが、4月29日に涙ながら辞任発表した内閣官房参与の原子力専門家の小佐古敏荘東京大学大学院教授を彷彿とさせるものがある。
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現在は、「カシンベック病」はセレン不足が原因とされているようだが、当時はリスクを先取りする対応をとり、多摩川を水源とする上水はなくなったが、工業用水は残ったのである。残したといって言いだろう。東京都は多摩川の大量の取水権を確保しているのである。
東京都の工業用水を使用する企業、特に食品製造企業は、この古典的な問題ばかりでなく、食中毒を引き起こすクリプトスポリジウム、一時大騒動となった環境ホルモン、これに加えて原発事故による放射性物質など、水圏の環境リスクをすべて負っていることを認識しておかなくてはならない。

by ecospec33 | 2011-06-07 10:09 | 〇原発事故と環境リスク  

原発事故から環境リスクを考えるⅡ

2003年に日本評論社が出版した渡辺正・林俊郎著「ダイオキシン」という本がある。
私も「化学工学誌」にこの書評をしたためたが、環境リスクマネジメントの第一人者である中西準子先生は、この本の感想をホームページの「雑感」に記し、ダイオキシン騒動の終焉としている。
また、科学的根拠をもって「ダイオキシン特別措置法」へも疑問の意を明確に唱えている。

環境リスクには、ダイオキシンなどの化学物資や工業製品によるもの、地球温暖化によるもの、それに派生するものがあるが、それに加えて、原発事故によるものが加わった。
食物に関する放射性物質濃度の「安全基準」が、新たに設定されるなど慌ただしい。
そこには「安心基準」がないため、不安はぬぐいされない。

中西先生は、その「雑感」に『科学を否定しつつ、科学を使う。そして、この過程でいくつかのグラフが登場し、それが、多くの本で引用され、TVに登場した。このようなパラノイアが起きると、多くの人は必ずマスコミが悪いと言う。しかし、その元のデータを提供しているのは、学者(大学の教官か、国立研究機関の研究員)である。マスコミより、学者の責任の方が大きいというのが私の意見。いくつかのことが、今でははっきりと間違い、または、嘘だとわかっている。一つは、測定データ。もう一つは、統計処理されたグラフなど。私がいつも奇妙だと思うのは、いずれも科学の仮面を被っていることである。』とも記している。

今の原発事故後の様々な事象にも、そのまま当てはまる指摘であると思う。
中西先生は『健康(環境)リスクの大きさを「損失余命」という統一された尺度でリスク評価する手法』を提示している。
このリスク評価法で、原発事故後の食物などの放射性物質濃度、大気中の放射線量などを評価してもらえば、非常にわかりやすいと思うのだが、中西先生は原発事故後に「雑感」を記さず、沈黙されている。
それは、原発事故騒動が進行中という査証なのだろう。
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「日経エコロジー」より転載

by ecospec33 | 2011-06-06 19:46 | 〇原発事故と環境リスク  

福島原発事故からリスクへの設備投資を考える

企業の設備投資は、企業の成長に欠かすことが出来ないものであり、企業の命運をかける「前向き」で「積極的」な大規模のものあるだろうし、設備更新のための「消極的」なもの、単に利益を上げるだけのもの、様々なリスクを軽減するための「後ろ向き」のものもあるだろう。
東京電力の原子力発電の安全対策という「後ろ向き」の設備投資には、どのような基準があったのだろうか。国の安全基準に準拠していなくてはならないから、安全対策の設備投資の最低限度は決定されている。それに対し、どれだけの余裕度、安全率をかけているかということが、各電力会社の経営努力ということになるのだろうが、東京電力はどうであったのだろうか。

企業のリスクとして考えなくてはならない労働安全対策など「後ろ向き」と思われる設備投資は、なかなか決済されないという経験がある。
多くの工場では労働災害がおこらないと、設備対応などの対策をとらないことが多かった。
このため、「労働安全に関わる設備基準」を設定し、「労働安全」のための設備投資を毎年計上する仕組みを作ったが、ある工場長から「君の指摘で設備投資したから、決算が赤字になったよ。」と言われたことがあった。
このように、本社も工場も、企業は「後ろ向き」の設備投資、経費支出は嫌うのである。

この労働安全などは、リスクを経済リスクとして損失コストを算定することが難しいが、容易な事例もあった。
ある工場から、長時間の停電対策のために自家発電機を設置して欲しいという要望があった。
このリスクは、製造途中の中間製品の廃棄を損失コストとして算定でき、それを自家発電設備投資額とその運転維持費と比較すれば、設備投資の適否が容易に決定できた。
この中間品は高価なものではなく、また長時間の停電も極端に少ないことから、この要望は却下としたが、2000年の雪印乳業の集団食中毒事件は、北海道の乳製品工場での長時間停電による脱脂乳の腐敗が原因であったことを忘れてはならないことである。

福島第一原発の事故は、企業のリスクにとどまらず社会のリスク、国のリスクを新たに発生させた。
安全対策として、このリスクをどこまで設計に組み込んでいたかは、想定内か想定外かということであろう。
しかしながら、原発運転開始から30年、40年の間に、地震と津波の知見が増大したであろうことを配慮すれば、東京電力の事故リスクへの設備投資が、不足していたことは明らかなように思う。

by ecospec33 | 2011-06-04 19:22 | 〇原発事故と環境リスク