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原発事故から環境リスクを考えるⅢ(水圏の環境リスク、工業用水、カシンベック病)

工業用水道事業は、工業の健全な発達と地盤沈下を防止することを目的に、自治体が主体になって、製造業用の水(工業用水)を供給する事業である。
東京都、茨城県、愛知県、阪神地区の自治体、仙台市、横浜市などが、この事業をおこなっている。
この工業用水道と上水道(市水、水道)の配管を取り違え、何年も気づかなかったという話題が新聞など報道されることがある。
その時は必ず、市民が「工業用水の方がうまかった。」というような記事になる。それは何故か?工業用水は上水より、殺菌用の塩素剤の投入が少ないためである。

食品製造企業は、他の事業に比べて用水の確保が重要である。
ビール、飲料会社では、工業用水道を多用するキリン、アサヒに比べて、サントリーは工業用水を極力使用しないよう、工場立地に努力しているように見受けられる。
井戸水、伏流水、河川水など自然から得られる用水は安価であるが、容易に得られる工場立地は少ないので、それに代わる工業用水は上水に比べて安価であることから、これを確保することが、企業にとって有利となる。
上水(水道)は、「水道法」で『国及び地方公共団体は、水道が国民の日常生活に直結し、その健康を守るために欠くことのできないものであり、かつ、水が貴重な資源であることにかんがみ、水源及び水道施設並びにこれらの周辺の清潔保持並びに水の適正かつ合理的な使用に関し必要な施策を講じなければならない。』と規定されているが、「工業用水法」には、このような「健康」規定はない。
このため、食品製造企業が工業用水を使用する際のリスクは、健康被害を生じる可能性があることである。
そのリスクを企業は認識しておくことが重要であり、このリスクを回避させるため、用水処理施設とその維持管理が必要となる。
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東京都の工業用水は葛飾区、江戸川区など東の区部に配水されているが、企業の撤退により、その使用が減少しており、また地下水の揚水規制によって地盤沈下が抑えられていることから、その事業の廃止などを含めた抜本的な改革を検討しているという。

この工業用水の原水は、その多くは利根川の表流水であるが、多摩川の表流水もある。
多摩川の原水は骨・関節の変形などの「カシンベック病」を発症させるのではないかという疑いがあり、1970年に都の調査委員会が結成された。委員会が重大なリスクありとの少数意見を受け入れなかったので、委員が辞任する騒ぎとなったという。
当時の美濃部都知事にその委員が直訴して、多摩川を水源とする玉川浄水場の上水は閉鎖されることになったという。
結果は異なるが、4月29日に涙ながら辞任発表した内閣官房参与の原子力専門家の小佐古敏荘東京大学大学院教授を彷彿とさせるものがある。
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現在は、「カシンベック病」はセレン不足が原因とされているようだが、当時はリスクを先取りする対応をとり、多摩川を水源とする上水はなくなったが、工業用水は残ったのである。残したといって言いだろう。東京都は多摩川の大量の取水権を確保しているのである。
東京都の工業用水を使用する企業、特に食品製造企業は、この古典的な問題ばかりでなく、食中毒を引き起こすクリプトスポリジウム、一時大騒動となった環境ホルモン、これに加えて原発事故による放射性物質など、水圏の環境リスクをすべて負っていることを認識しておかなくてはならない。

by ecospec33 | 2011-06-07 10:09 | 〇原発事故と環境リスク  

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