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発展途上国の省エネルギー診断の難しさ (モンゴル、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP))

昨日ゴールデンウィークの中日に、かつての上司二人と会食した。
東京駅から丸の内に出たが、安近短というゴールデンウィークの過ごし方が表われており、相当な混雑だった。
二人とも乳業界でトップクラスの技術者で、一人は中国の乳業会社への技術支援を、一人は大手乳業会社の関係会社の役員をしている。
そのうちの一人から、2002年の夏前に「省エネルギーセンターを通じて、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)から支援要請があり、モンゴルの乳業会社の省エネ診断をしてくれないか。」という打診があった。

会社の仕事とは切り離さなくてはと考え、自宅のパソコンでこれまで蓄積した省エネルギーに関する資料を英語に訳すなど、徹夜に近い作業もした。その頃のパソコンは容量が小さく、パワーポイント作成中にフリーズするなどで悪戦苦闘したが、9月下旬のモンゴルへの9日間出張に間に合った。
当日搭乗予定の飛行機が飛来せず、翌日に成田空港に再度出向くというハプニングもあったが、司馬遼太郎の「モンゴル紀行」の頃とは違って、成田から5時間半ほどの快適な空路であった。
ウランバートル空港には夜11時ごろ降り立ったが、地方空港より狭い到着ロビーから搭乗者のほとんどが消え、いつまでたっても私をピックアップする人物が現れない。インターネット・メールに行き違いがあったのだろうかと落ち着かい気持ちでいた。UNESCAPに在籍する日本人が来てくれるものと思っていたが、現地の担当者らしき人が現れ、英語で話しかけて来たので安堵した。
街灯がほとんどない暗い道を市内に進むのだが、大きなゲートをくぐって道は非常に悪い。古いベンツではその衝撃をまともに受ける。国会に近いソ連統治時代の五つ星ホテルのウランバートルホテルに着くと、ロビーには背の高いモデル女性がたむろしていて、真夜中の異様な光景であった。

翌朝、野菜の少ない朝食を摂って、中心地から車で10分ほどの乳業会社で省エネルギー診断と教育が始まった。
工場幹部は女性ばかりで、これが社会主義の男女同権という。ソ連が建設した工場を視察するが、衛生状態が悪い。トイレも驚くほど汚いなど省エネ以前の問題である。
ソ連が撤退して10年余り経過し、原乳200トン/日の処理能力を有する工場が、周辺の乳牛が大量死滅するなど酪農が衰退し、毎日20トン程度しか処理していない。製造設備と付帯する冷蔵設備など、メンテナンスが非常に悪い。これも省エネ以前の問題である。
乳業工場に蒸気ボイラーはない。首都ウランバートルは、都市周辺にある良質な石炭を燃料とする3つの火力発電所から電気と蒸気が送られている。このため、スターリンの壁画がある発電所を視察させてもらい、熱効率を確認したが、納得いくような説明をしてくれない。帰国してからも、この発電所の自動化の技術援助をしている横河電機㈱の担当者からも聞いたのだが、熱効率は気にかけていることだが、データ開示がなく困っているとのことであった。
3階建の経済産業省に相当する官庁にも出向き、局長クラスの人物と面会したが、その前任者は三井物産のODA贈賄事件で失脚したばかりという。それも100万円という少額な金額であったという。
ちなみに、ホテル一泊5000円が一般人の給与月額ということであった。

今は省エネルギーセンターの海外指導の顧問をしている、当時UNESCAPに在籍していた日本人は「いろいろな国を指導してきたが、モンゴルは一番厳しい国と思う。」とのことであった。
9月末では、モンゴルの緑の大地のゲルを見ることは出来なかったが、帰途の飛行機から見る日本の緑は素晴らしかった。
英国英語での報告書作成には少々手を焼いたが、後進国の省エネルギー診断は、保温など単純な省エネの技術的な課題ばかりではなく、その国の在り様から考慮する必要がある。

余談であるが、その数年後に、NEDO「産業用コージェネレーション実用技術開発」の評価でご一緒した東海大学の伊藤高根教授がモンゴルの留学生を連れて来訪された。博士課程でバターの製造装置を開発したいと希望しているが、どうかという相談であった。
モンゴルの乳業の実情と国際的な乳業製造装置の実態を説明し、課題としては難しいことを話した。モンゴル人の教育熱心さはウランバートル市民の行動からうかがい知ることが出来たが、日本がどのように支援するか容易でないと感じた次第である。

by ecospec33 | 2011-05-04 08:40 | ●エネルギー問題  

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